ポルシェ911Turbo 3.6
ディーラー車
1973年にポルシェは、最大の輸出国であるアメリカ合衆国の、連邦自動車安全基準(FMVSS)に対応して、前後に大型の5マイル・バンパー(フロント側5mph=約8.5km/h、リア側3mph =約4.8km/hの速度で衝突に際しヘッドライト、テールライトを含む灯火類と給油装置に損傷を与えない様、ショックを吸収出来るバンパー)と呼ばれるモダンなデザインのバンパーを取り付けた新型「ポルシェ911」を「Gシリーズ」として9月のフランクフルトショーで発表する。そのブースに同時に展示された、シルバーのボディに特徴的なリアウィングと大きくフレアしたフェンダーを装備し、白い「Turbo」の文字のストライプを纏った、最高出力280馬力のエンジンを搭載し最高速度280km/hを標榜するプロトタイプを発表する。このモデルはおよそ1年の時を経て1974年10月のパリサロンで「911」シリーズのトップモデル「930ターボ」としてデビューを果たすこととなる。デビュー後、年次改良が施されながら進化を続け、1977年秋のフランクフルトショーでは搭載エンジンの排気量を3ℓから3.3ℓに拡大した「911ターボ」に発展し「Gシリーズ」が終焉を迎える1989年まで生産される事となる。1980年にポルシェ始まって以来の赤字転落への責任を取り任期を一年残して辞任したエルンスト・フールマンは、水冷V8エンジンを搭載した「928」を「911」の後任と考え、ポルシェ・ファミリーと対立を見せていた。一時は存続の危機にもさらされた「911」シリーズではあったが、1981年にポルシェの社長に新たに就任したペーター・シュッツは「911」のブランド性に着目し、ポルシェは再び「911」を中心とした商品展開に回帰する。そして当時のポルシェがもつ技術の粋を集め「911」の可能性を具現化した4WDでツインターボエンジンを搭載したスペシャル・モデル「959」を1985年のフランクフルトショーでデビューさせる。更にこの頃ポルシェでは、高額で生産台数が限られる「959」に対して、そのイメージをボディデザインに使って、よりリーズナブルな価格で「911ターボ」の後継モデルとして開発が進められていたプロトタイプ「965」が存在していた。このモデルは、水冷ヘッドをもつフラット6エンジンにツインターボを組み合わせたユニットか、或いはアウディ用をベースとする水冷V8エンジンをリアに搭載していた。駆動方式は4WDとされ16台の試作車が製作されたが、1987年の「ブラックマンデー」による米国株式市場悪化の影響を受け、経営が悪化したポルシェはこのプロジェクトをキャンセルし「965」の為の技術は、新型「911」として開発される「964」に盛り込まれ活かされる事となる。そして1989年のパリサロンでデビューを迎えたのが「911」としては初の4WDモデル「911カレラ4」だった。「Gシリーズ」までの「911」では、フロアパン構造はバルクヘッドがプラットフォームの変形を押さえる仕組みだったのに対し「964」では、プラットフォームとバルクヘッド、更にアウターパネルが連動して応力を受け止めるフルモノコック構造とされている。またエンジン搭載角度はデビュー時から2度30分の前傾搭載とされてきた「911」だったが、4WDモデルが導入された「964」系ではプロペラシャフトを通す為に水平に搭載されている。15年間にわたりポルシェの開発を率いてきたヘルムート・ボットに代わり、2000年にアストン・マーティンのCEOとなるウルリッヒ・ベッツにより開発された「964」に続き、1990年のジュネーブショーでデビューを果たしたのは「964」ボディを纏った新たな「911ターボ」だった。このモデルは、短い開発期間と北米マーケットでの販売回復を目標に、従来モデルの倍ともいえる年間3000台の生産計画を掲げていた。発表のショー会場では、集まった多くのジャーナリスト達から”他の964モデルが、3.6ℓエンジンを搭載するのに新型「911ターボ」は、何故3.3ℓエンジンのままなのか?“、”何故4WDモデルとしなかったのか?“という質問が多く投げかけられた。これに対して開発チーフのウルリッヒ・ベッツは”3.3ℓエンジンの採用は、開発期間の短縮によるコスト低減と高い信頼性を確保する為“と語り、4WDについては、”カーガイ“であるベッツらしく”スポーツカーとは前輪で操舵を、後輪でトラクションを制御するのが醍醐味で「ターボ」は「カレラ4」とは別のキャラクターをもつモデルである“と即答で対応している。新型「911ターボ」は「964」ボディに「ターボ」モデルのアイデンティティとなる前後のオーバーフェンダーとリアウィングに加え、0.39から0.36に改善されたCd値に寄与する新デザインの”ターボミラー“とよばれる専用ドアミラーを装備している。贅沢なマテリアルによる豪華な内装と充実した装備も「Gシリーズ」時代の「911ターボ」から継承している。搭載するターボエンジンも同様に、3.3ℓの930/66型エンジンをベースとし、燃料供給システムをボッシュKEジェトロニックに変更したM30/69型となる。装備するターボチャージャーは同じKKK製ながら、A/R比を絞り小径化されて、インコネル製排気タービンを装備したK27型となり、これに50%容量が増やされたチャージアフタークーラー(通称インタークーラー)を加えることで、最高出力320馬力/5750rpm、最大トルク45.9kgm/4500rpmを発揮する。この性能値が、キャタライザーを装備した上で得られるところがポイントとなっている。組み合わされるトランスミッションは「Gシリーズ」時代の「911ターボ」最終モデルに採用された5速MTのG50/50型ギアボックスのギア比ごと流用し、ギアケースが新しくされたG50/52型となる。このパワートレインは、ハイドロリック・マウントを介して「964」系のサブフレームに固定、車体軸にたいして水平に低く搭載されている。オイルタンクをリアタイヤ前方に移動した「964」系ではマフラーの容量アップが可能となり、2本あるテールパイプの向かって右側がメインの排気口で、左側はウェストゲート用となっている。エンジン以外ではABSや、パワーアシスト付となったステアリング、新しい空調システム、エアバック等が他の「964」系と同様に採用されたことで先代の最終モデル比では、+135kgの車両重量となる。新型「911ターボ」はスタンダードでフル装備となる為、そこを考慮すると実質重量アップは80kg程度とポルシェは公言している。足回りは、サスペンション型式は前後ともに先代モデルからのキャリーオーバーとしながらも、長らく「911」の代名詞となっていたトーションバースプリングは、一般的なコイルスプリングに置き換えられ、17インチ化されたホイールには、ブリヂストンと共同開発した”エクスペディアS01“が組み合わされている。メーカー公表性能値は、0→100km/h加速5.0秒、最高速度270km/hを誇り、およそ2年間で4107台が生産されたモデルとなっている。︎このモデルの後継モデルとなるのが、1992年秋のパリサロンでデビューする「911ターボ3.6」となる。この時、同じポルシェのブースに並べられ共にデビューを飾ったのが964型「カレラ2」をベースとする「カレラ2スピードスター」だった。ポルシェはこれらの1993年モデルの発表にあたり、エアコンの特定フロンの使用禁止や、プラスチック部品へのリサイクルナンバーの付与、ボディペイント用塗料を水溶性に変更、右ハンドル仕様のモデルにもエアバックを採用するなど環境と安全に対する姿勢を打ち出し、時代の変化に対して積極的な対応を見せている。しかしポルシェは、ピーク時の3割となる年産2万台をキープ出来るか苦悩する状況を抱えていた。「911ターボ3.6」は、車名からもわかる様に、このモデルから「964」系のモデルが採用していたM64/01型とよばれる3.6ℓエンジンをベースとするM64/50型という型式をもつ新型ターボエンジンが搭載されている。エクステリアデザインはそれまでの3.3ℓモデルから継承されるが、特徴的な18インチ径をもつスピードライン製の3ピースホイールが装備されている。このホイールは、1992年春のジュネーブショーでデビューし、当時”最強のロードゴーイングレーサー“と呼ばれた「ポルシェ911ターボS」が装備していたものとなる。964型「カレラRS」と同様にヴァイザッハのレース部門で開発された「911ターボS」は、IMSAスーパーカー・シリーズでの964型「911ターボ」の活躍を記念して発表されたモデルで、レースフィールドからの技術がフィードバックされたモデルとなっている。エクステリアの特徴はエンジンルームに冷却用エアを導く為のエアインテークが「959」の様にリアフェンダー上に開けられ、リアウィングはリップ部分までボディカラーで塗られたタイプが採用されている。搭載エンジンは3.3ℓ仕様の空冷フラット6ターボエンジンをベースに、専用カムシャフトを組み込み、ポート及び吸気システムの加工、そしてターボチャージャーの最大過給圧は0.7から0.78に引き上げられたM30型と呼ばれるエンジンが搭載されている。赤いチャージアフタークーラーダクトを装備するこのエンジンは、ベースモデルに比べ約20%の出力アップとなる最高出力381馬力/6000rpm、最大トルク50.0kgm/4750rpmを発揮、その上で合計190kgにも及ぶ徹底した軽量化が施されている。充実した装備が特徴の「911ターボ」から、964型「カレラRS」の様に、電動シート、パワーウィンドウ、エアコン、パワステ、リアシート等が取り払われ、加えてアンダーコートや遮音材まで省略。フロントフード、左右ドアパネル、リアスポイラーはカーボンコンポジット製に、サイド、リアのウィンドウは特製の薄い材質が採用され、92ℓの燃料タンクをフルに満たした状態で1290kgを達成している。車高は40mm下げられレース技術をフィードバックされた、より強力なダンパーと太いスタビライザーを装備、18インチ径のスピードライン製3ピースホイールが採用され、フロントには大型ブレーキディスクと赤く塗られたカラードキャリパーを装備している。メーカー公表性能値は0→100km/h加速4.66秒、0→1km加速22.42秒と圧倒的な加速力を誇り、この数字は触媒無しの「959」にも匹敵する。最高速度は290km/hとされ、タウンスピードでは「フォルクスワーゲン・ゴルフ」並みのコンフォート性能をもち、3000rpmからの強烈極まるターボキックが同居する性格と、100km/hから停止まで僅か2.6秒という強力な制動力を備えている。この「911ターボS」は、新車時295000ドイツマルクで販売され、この車両価格はフル装備のノーマル「911ターボ」と「カレラ4」を足した金額に等しく、86台が限定生産されたモデルで、後の「911GT2」の先駆け的存在といえるかもしれない。このモデルからスピードライン製18インチ径の3ピースホイールと、足回りのノウハウを譲り受けた「911ターボ3.6」は、それまでの3.3ℓ仕様から20mm低い車高と、本来のプロダクションモデルとしての「911ターボ」の豪華な装備を特徴としている。︎今回入荷した1993年型「911ターボ3.6」が搭載するエンジンは、空冷水平対抗6気筒SOHC12バルブでボア×ストローク100.0mm×76.4mmから3600ccの排気量をもち、KKK製のK27型ターボチャージャーとチャージアフタークーラーが装備される。クランクケースとシリンダーブロックは「964」系のものとなるが、インテークとエキゾースト、そしてシリンダーヘッドは新たに設計され「964」系の特徴でもあるツインプラグ方式は採用されていない。燃料供給システムが同じボッシュでもDMEからKEジェトロニックに変更され、ピストン、カムシャフトも専用設計とされている。ターボチャージャーの最大過給圧は0.7バールを維持し、圧縮比は3.3ℓ時代の7から7.5に引き上げられ、最高出力360馬力/5500rpm、最大トルク53.0kgm/4200rpmを発揮する。2400〜5500rpmの広い範囲で、既に3.3ℓモデルの最大トルク値を上回るトルクを発揮している。フライホイールは「964」系と同様、LUK製のダブルマス式が採用されクランクシャフトの捩れ振動対策が施されている。組み合わされるトランスミッションは、3.3ℓモデルと同じ5速MTのG50/52型となり、増速時20%、減速時80%のロッキングファクターをもつ2wayタイプのLSDが装備されている。このパワートレインは3.3ℓ仕様と同様にハイドロリック・マウントにより低く搭載されている。︎足回りは、フロントにマクファーソン・ストラット+コイルスプリング+スタビライザー、リアにセミトレーリングアーム+コイルスプリング+スタビライザーで構成されるのは3.3ℓ仕様と同様となる。レーシングフィールドから964系「911ターボS」を経て、そのノウハウによりセッティングされた足回りは、3.3ℓ仕様に比べ20mm車高が低くされ、締め上げられたダンパーとレートを15%ほど強化されたスプリングが組み合わされている。この足回りを活かして積極的にパワーを路面に伝えるホイールとタイヤの組み合わせは「911ターボS」譲りのスピードライン製ホイールとファットなハイグリップタイヤが採用されている。サイズは18インチ径のホイールの幅は前後それぞれ8J/10Jとなり、225/40ZR18、265/35ZR18というタイヤが組み合わされている。引き上げられたパワーに対してブレーキは、フロント322mm径×32mm、リア299mm径×28mmサイズのドリルド・ベンチレーテッド・ディスクを装備、フロント、リアともに赤く塗られた4ピストンのブレンボ製キャリパーが組み合わされAte製のABSが採用されている。このブレーキシステムによる100km/hから停止までの所要時間は2.63秒と、優れたストッピングパワーを発揮している。ホイールの大径化に伴い装備された大型のキャリパーが目立ち始めた時代に、そのストッピングパワーを強調する様にカラードキャリパーの採用が始まったのは「911ターボS」からとなり、この「ターボ3.6」にも引き継がれている。トラクションを活かした加速性能を追求するポルシェは、古くからそのエンジンレイアウトを活かした高いブレーキ性能も追求し続けてきた歴史をもつ。カラードキャリパーは、ブレーキ性能を重視するポルシェならではの発想といえるのかもしれない。︎インテリアは、見慣れた「911」の世界が展開されるが、角度が立ち気味のフロントウィンドウのおかげで、奥行きのないダッシュボードはレザー張りとされ、カーペットも上級なマテリアルが採用されトップモデルとしての「911ターボ」が表現されている。964系となってから、運転席、助手席ともにエアバックが装備されるようになり、ステアリングは4スポークタイプのデザインを採用、グローブボックスはミニマムなスペースとなっている。ステアリングを通してドライバー正面には「911」伝統の大径のレブカウンターがレイアウトされ「Gシリーズ」ベースの「911ターボ」までは、その下部にブースト計が内蔵されていたが、964系となってからは、デジタル・ディスプレイに変更されている。このディスプレイには、トリップや瞬間/平均速度、ブースト圧が表示可能となっている。レブカウンターの右側には、やや小径のスピードメーカーが置かれ、3.3ℓ仕様では300km/hまで刻まれた目盛は、このモデルでは320km/hまで引き上げられている。「911」誕生以来引き継がれる5連メーターは、全て視認性の高いVDO製となる。また「911」ならではの、ハイバックシートはフル電動式が採用され厚手の高級レザーで覆われ「911」のトップモデルらしい風格をもつ。人を乗せるには少々スペースが限られるが、手荷物を置くのに便利な後部座席も装備され、後部座席のシートバックは左右個別に前方に倒すことでラゲッジスペースとして活用出来るもので、左右の背もたれ裏面にはそれぞれに「turbo3.6」の文字が入れられている。︎全長×全幅×全高は、4275mm×1775mm×1290mm、ホイールベースは2270mm、トレッド前1440mm、後1490mm、車両重量は1470kgとなっている。燃料タンク容量は77ℓ、最小回転半径は5.7m、前後重量配分は38:62、新車時販売価格は1850万円となっている。「911ターボ3.6」の生産台数は1875台となり、日本への正規輸入台数は60台とされている。︎メーカー公表性能値は0→100km/h加速4.8秒、0→1km加速23.3秒、最高速度280km/hとなっている。カーグラフィック誌による実測テストでは、0→100km/h加速5.2秒、0→400m加速13.2秒、0→1km加速23.7秒、最高速度は277.8km/hを記録している。「ポルシェ911ターボ3.6」は、1995年に公開されたハリウッドによるアクションムービー「バットボーイズ」で、世界的スーパースターとなるウィル・スミス演じる刑事、マイク・ラーリーの愛車として登場している。マイクは幼い頃に両親を亡くし莫大な財産を受け継いだ独身貴族の設定で、趣味はスーパーカーという事から「ターボ3.6」を愛車としていた。フロリダ州マイアミを舞台に展開されるストーリーのクライマックスで、空港の滑走路を使ったシェルビー・コブラとのカーチェイスシーンでは「ターボ3.6」の速さが印象深く表現されている。ウィル・スミスは、1996年の「インディペンデンスデイ」、更に翌年の1997年公開の「メン・イン・ブラック」のヒットにより一躍スターダムにのし上がり、そのきっかけとなる作品でもある。「バットボーイズ」製作にあたり、ポルシェが車両の提供を断った事により、この映画の監督マイケル・ベイ自身のプライベートカーを使って撮影が行われたというエピソードが残されている。また生産台数の少ない「ターボ3.6」のこの時期のアメリカへの輸出量は、かなり少なかったとされている。︎「Gシリーズ」時代まで長らく続いた「911ターボ」と同様、964系のボディを得た「911ターボ3.6」も、そのオーバーフェンダーとリアウィングが、その強力なターボパワーと「911」シリーズのトップモデルという事を象徴している。それ以前の「ターボ3.3」に比べ、低められた車高と、18インチ径の3ピースホイール、そのスポークの隙間から覗く赤く塗られたブレーキキャリパーにより、特別感はより高められている様にも見える。ドアを開いて低いシートに腰を下ろす。ドアを閉めた瞬間に硬質な響きとともに外界から隔絶された様な密閉感が感じられるのは「911」ならではの強靭なモノコックボディが継承されているからだ。立ち気味で細いピラー類により、視界は良好で、ヘッドライトへと続くフェンダーの峰は「911」誕生時から変わることなく存在している。専用デザインのドアミラーには「ターボ」モデルならではの張り出したリアフェンダーが映り込んで見える。ドライビングポジションを調整して、左手でキーを捻りエンジンをスタートさせると、短いクランキングの後に空冷エンジンならではの低いサウンドが後方から響いてくる。アシストスプリングにより、それほど重さを感じないクラッチを踏んでギアレバーを1速に送り込み、ゆっくりとクラッチをエンゲージしてみると、アイドリング付近から充分なトルクを発揮するエンジン特性により滑らかにスタートすることが可能となる。タウンスピードでも、パワーアシストの付けられたステアリングはスムーズで、低く固められた足回りから想像されるより良好な乗り心地が味わえる。「Gシリーズ」までの「911」では、ノンパワーのステアリングはダイレクトなフィーリングをもたらすとともに強いキックバックが特徴とされていた。「964」系モデルでは、ABSが付けられた関係からスクラヴ半径の変化によりマイルドなステアリング感覚とされ、ギアレバーの動きも滑らかさを増している。本格的にターボ過給が開始される迄の乗り味は、ゴツゴツ感が遮断された事により、よりフラットな方向へと変化を見せている。2000〜5000rpmにわたり45 kgm以上のトルクを発揮するエンジンによるトルク特性は排気量アップの恩恵から、力強さを感じさせるものでターボが本格的に効き始める回転域への繋がりをより自然なものとするとともに、混んだ市街地でのスロットルワークに神経を使わされる事無く柔軟性が高められている。タウンスピードでのドライバビリティが引き上げられ、取り回しのしやすさや良好な視界の広さは「911」の良き伝統として引き継がれたものとなる。しかし、排気量アップの恩恵は、その「ターボ」ユニットがもつ本来の性能にも大きく貢献し、レブカウンターの針が4000rpm近くまで跳ね上がったのを確認して、右足に力を込めると一気にその本性を表す。その豹変ぶりは炸裂感を伴った猛然とした加速感となって表れ、その瞬間ドライバーの身体はバックレストに強烈に押し付けられる事となる。それまでの滑らかなトルク特性からの変化となる為、その変化はより強調されデジタル・ディスプレイに表示されたフルブースト値を見ている余裕すら与えてくれない。「ポルシェ911ターボ3.6」がもつ高級なシティークルーザーとしての性格から、エキスパート向けのスーパースポーツモデルへと完全に変化を見せる瞬間となる。この変化にも固められた足回りはストロークしてしなやかに追従し、極めて強力なブレーキシステムはどんな状況に於いてもその存在感もって強い味方となる。ワインディングロードに於いても、強力なエンジンパワーとサスペンションを有効に活用するのはドライバーに委ねられている。コーナーでのアプローチではしっかりとしたブレーキングが必要となり、ステアリングとブレーキによりコーナー前半に姿勢を整えて脱出時にトラクションを活かしてターボパワーで加速する。このセオリー通りのドライビングでも充分な速さと充実感が味わえ、そのターボパワーによる加速感とリアタイヤがもたらす強力なトラクションは「ポルシェ911ターボ」ならではのものとなる。歴代の「911」と同様に、強力なブレーキ性能が「ターボ3.6」にも備わるのは、コーナリングに占めるブレーキの重要性が高いからと言われている。連続するコーナーを思い描いた通りのラインと姿勢で走りまわれる快感は、ドライバーに大きな充実感をもたらす事となる。誕生以来の空冷エンジンを搭載し、全長4.3mを切るコンパクトなボディでありながら、強力に路面を蹴りアスファルトを鷲掴みにする感覚を実感させてくれる「ターボ3.6」は、1974年に誕生してここまで進化し続けた「ポルシェ911ターボ」のひとつの頂点ともいえるモデルとなっている。「ポルシェ911ターボ」の歴史はこのモデル以降も続き、更なる性能アップが図られるが、そのラインナップの中でも「ターボ3.6」がもつ個性は決して埋もれる事なく輝き続け、その輝きはこれからも更に増していく事となるのだろう…