ポルシェ911Turbo
サンルーフ・スポーツシート・リアワイパー・整備履歴明細等ございます。
「ターボ」とは、排気エネルギーでタービンを回し、その同軸上にレイアウトされるコンプレッサーにより吸入される空気を加圧してエンジン出力を増加させるシステム。その歴史は意外に古く、アイデアが誕生したのは1905年といわれている。発明者はズルツァー・ブラザース研究開発所の主任技師、アルフレッド・ヴュッヒとなり特許もこの年に成立するが、実働機による作動確認までは辿り着けてはいない。実用化はフランスの蒸気タービン技師、オーギュスト・ラトーが航空機エンジンの為に開発したものが史上初で1918年とされている。その後もターボ技術の開発は定速での運転が基本となる航空機用エンジンを中心に進み、1940年代に入る迄には完全に一般化され、ボーイング社の「B17」爆撃機もこの技術により高高度飛行が可能となった。このターボ技術を自動車に最初に導入したのはGMでギャレット・エアリサーチ社製T05型ターボで、3.5ℓ・V型8気筒OHVエンジンを過給し「オールズモビル・ジェットファイヤー」に搭載、初のターボモデルとして販売されたのが1962年4月となっている。様々なレースに積極的に参戦し続け、常にトップコンテンダーとして存在しながら、ハイパフォーマンスモデル「911」を生産する世界を代表するスポーツカー・メーカー、ポルシェは創業時から競争力の高いレースマシンの開発が途切れる事は無かった。1960年代から「904」「907」「910」「917」と続くプロトタイプ・レーシングモデルにより多くの総合優勝を手に入れ「911」をベースとする「RSR」でもGTカーレースでの勝利を獲得していく。1973年の「ナナサンのRS」でホモロゲーションを獲得したポルシェは、レーシングモデル「カレラRSR2.8」でクラス優勝を重ねるだけに留まらず、発展型となる「カレラRSR3.0」を開発してプロトタイプクラスへと移行し1973年の「タルガフローリオ」では総合優勝を果たす程の高い性能を現実のものとした。1974年シーズン用には「RSR3.0」の競争力アップの為に、このエンジンをベースにハンス・メツガーの発案によりCan-Amシリーズで勝利を獲得したレーシングモデル「917/30」に採用されていた“ターボ”技術を使ってパワーアップを図った「カレラRSRターボ」を開発する。搭載されるエンジンはターボ過給係数1.4を掛けて3ℓ以内のカテゴリーにエントリーする為、2142ccとされた。空冷フラット6にKKK(キューネ・コップ&カウス社=現在はボルグワーナー・ターボシステム社に吸収合併されガソリンエンジン用ターボシェアは世界一となる)製シングルターボチャージャーを装備し、ベースモデルの「カレラRSR3.0」の330馬力から470馬力へとパワーアップが図られた。高出力化に伴いナトリウム封入バルブやチタン製コンロッドが採用され、ドライブシャフトは「917」用とされるなど各部に対策が施される中、クランクシャフトは依然市販用「911」の2ℓエンジンと同じ物が使われていたといわれている。このターボエンジンが搭載された「カレラRSRターボ」は1974年3月24日に行われたル・マン・テストデイに送り込まれると、思い切り広げられたリア・フェンダーと車幅いっぱいの巨大なリア・ウィングに注目が集まった。この年は「マトラMS670」や「アルファロメオ TT12」といった強豪エンデュランス・レーシングモデルがエントリーする中「カレラRSRターボ」は4月の「モンツァ1000km」でレース・デビューを飾り5位入賞を果たす。続く「スパ1000km」では3位、更に「ニュルブルクリンク1000km」では6位と好成績を連発する。そして迎えた「ル・マン」決勝レースにエントリーした2台の「カレラRSRターボ」は、ゼッケン21番を付けた1台はエンジン・トラブルによりリタイア。7番グリットからスタートしたレネップ/ミューラー組のゼッケン22番を付けたもう1台は、大方の予想を裏切って「マトラ」を抑え一時はトップを快走、しかし日曜日の昼前に5速ギアを失うギア・ボックストラブルによりペースを落とし最終的には2位入賞という結果を残した。ポルシェ製ターボエンジンのレースでの成功のカギは“ウエストゲートバルブ”の存在だった。定速回転で使われることで安定した過給圧が得られる航空機用エンジンに対して、ギアチェンジをはじめとして回転が上下する自動車用エンジンに使われる“ターボ”は、安定した排気エネルギーを得にくい状況下で使われる事になる。その結果、発生してしまうターボラグを減らす為に、ポルシェは排気ライン上にブースト圧を制御する“ウエストゲートバルブ”を設ける事で対策を図っていた。ターボエンジンによる快進撃を目論むポルシェに1976年からのレギュレーション改正と、世界メイクス選手権(WCM=World Championship for Makes)をグループ5に移行するという内容のアナウンスがFIAから届く。グループ5とは、グループ1〜4迄の公認を受けた車両をベースとし更なる改造が許されるカテゴリーで、各グループのうち最もホモロゲーション台数が少ないグループ4でも公認を受けるには、連続する24ヶ月間に400台もの生産が義務付けられていた。またグループ5のボディワークは公認を受けた市販ベースモデルのシルエットを維持することを条件としていた事から“シルエット・フォーミュラー”とよばれていた。ポルシェはこのカテゴリーへのエントリーを目指し、60年代から数々の勝利を得ていたレーシングプロトタイプモデルではなく「RSRターボ」を基本とするレーシングモデルの作製へと舵を切る。一方、1970年代に入りいっそう厳しさを増す排ガス規制の中、これまで以上にメインのスポーツモデル「911」のハイパフォーマンスを維持する為の新たな技術が切望される中で、この新レギュレーション用のホモロゲーションモデルの開発も懸案事項となっていた。この状況を打開するために社内マーケティング部からは、内装をストリップダウンした安価な新型モデルの開発が主張される中、当時ポルシェを率いていたエルンスト・フールマンは、ポルシェ生産車のトップに君臨するフラッグシップモデルであり、持てる技術のショールームとしての新型車の開発を進めることを決定する。︎ポルシェのロードモデル用、ターボエンジンの開発は、1960年代に2ℓ空冷フラット6エンジンを使い、ボッシュやKKKの協力により始められ、1969年には「911」と「914」にそのエンジンを搭載し販売する計画もたてられていたという。しかしポルシェは時期尚早として踏み止まり、それが現実となったのは1973年9月のフランクフルトショーに展示されたシルバーボディに白い「Turbo」の文字のストライプで彩られた280馬力/最高速度280km/hを標榜するプロトタイプからとなる。このショーではサーキットで鎬を削るバイエルンのライバル、BMWがひと足先にシャモニーホワイトボディの「2002ターボ」の市販モデルをデビューさせていた。ポルシェが市販を目指したターボエンジンの技術をBMWは、自社開発による航空機エンジンとレーシングモデル「2002tik」により市販モデルに反映させ、そのフロントスポイラーには逆文字で「TURBO」の文字が誇らしげに描かれていた。ポルシェは翌年8月にはフェルディナント・ポルシェの長女、ルイーゼ・ピエヒの70歳の誕生日を祝って開発された「ポルシェ911ターボNo.1」がお披露目される。このモデルには「カレラ」ボディが採用され、240馬力を発生する2.7ℓ・フラット6にターボチャージャーを加えたエンジンが搭載されていた。このモデルでは2.7ℓエンジンでは低速域でのトルクが薄く、扱い易さに欠ける事から排気量拡大が望まれた。この「911ターボNo.1」の強力なターボエンジンと、毛足の長い豪華な赤いカーペットや、タータンチェック柄が採用されたプレミアムなインテリアの組み合わせは、今に続く速さと豪華さを併せ持つ「911ターボ」のキャラクターが既に完成している。1年以上の開発期間を経て「カレラRS3.0」の2994cc空冷フラット6エンジンをベースに、KKK製のターボチャージャーを装備した930/50型エンジンと、対応トルクに余裕のある新開発の4速マニュアルギアボックス930/30型が完成する。このパワートレインが搭載されるボディには「カレラRSR3.0」のサスペンション等モータースポーツで培った技術が採用され、ワイドタイヤを装着する為に大きくフレアした前後フェンダーを装備し「911」ならではのグリーンハウスはそのまま維持されていた。またこのモデルならではの巨大なリアウィングは「ナナサンのRS」のダックテール・スポイラーと同様にヘルマン・ブルストによりデザインされたもので、フロントスポイラーと併せて空力を味方にした専用デザインが与えられ「911ターボ」と命名されて、ボディを「ヴァイパーグリーンダイヤモンド」に塗装されたモデルが1974年10月のパリサロンで発表される。社内コード「930」型とよばれていたこのモデルは、最高速度250km/hと0→100km/h加速5.5秒という圧倒的なパフォーマンスと、タータンチェックとレザーが組み合わされた高級なインテリアをもち、毛足の長いカーペットやパワーウィンドウ、そしてエアーコンディショナーまで装備する豪華なトップモデルとして1975年から販売が開始される。FIAの新たなレギュレーションによるグループ4のホモロゲーション取得の為、年間500台の生産を目標としていたが、発表とともにその倍のオーダーを獲得し、3年間で2850台が生産される人気モデルとなった。発売当初「911ターボ」に搭載されたエンジンは、930/50型とよばれる空冷水平対向6気筒SOHC12バルブで、ボア×ストローク95mm×70.4mmから2994ccの排気量を得ていた。ベースは「カレラRS3.0」のものとなるがクランクケースの材質は軽量なマグネシウム製から、ハイパワーに耐えるアルミ製に変更され、鋳鉄ライナーを廃して内部にニカシルメッキを施した「RS」用アルミスリーブが採用されている。ヘッドはRSよりバルブ挟み角を狭くした新設計とし、高熱に強いナトリウム封入エキゾーストバルブを備える。ピストンは「RSR」にも使われるアルミ鋳造製とされ、ターボ化による燃焼温度上昇に備えピストン裏を冷却するオイルジェットが追加されている。ターボチャージャーはKKK製K26型で最大過給圧0.8バールとされ、圧縮比は6.5、ボッシュKジェトロニック燃料噴射装置を装備し最高出力260馬力/5500rpmと最大トルク35kgm/4000rpmを発揮する。高出力化に伴い発熱量が増えたエンジンに対応して、冷却ファンの回転数はクランクシャフトの1.3倍速から1.67倍に引き上げられた。ターボユニットを加えてもコンパクトな仕上りを見せるエンジンは、自然吸気2.7ℓのフラット6より30kg程重い206kgに収められ、同排気量のフラット6自然吸気エンジンに比べ約1.3倍となるパワーの増加に対応し容量を増やされたクラッチは大径化が図られている。組み合わされるトランスミッションは新開発の強化型でハイギアードな4速MTの930/30型となる。このギアボックスは“シルエット・フォーミュラー”とよばれるグループ5のレーシングモデル「935」の600馬力のエンジンを想定して設計されアルミ製のケーシングをもつ。ディファレンシャルギアに30%のロッキングファクターが与えられたパワートレインに、エアコンはじめ豪華なトリムを施したインテリアを含めても車両重量は1200kgに抑えられることで「ポルシェ911ターボ」は当時のライバル車を圧倒するパフォーマンスを発揮した。ブレーキはそのパワーに対応した「917」由来のドリルド・ベンチレーテッドディスクが4輪に装備されフィン付きアルミキャリパーが組み合わされ、トレッドは自然吸気モデルに比べ、フロント80mm、リア170mmと大きく拡幅されている。装着タイヤは、当初フロント185/70VR15、リア215/60VR15のダンロップ製という自然吸気の「911」と同じ設定だったが、1976年型からはそれぞれ205/50VR15と225/50VR15サイズに格上げされるとともに、共同開発された革新的なタイヤ“ピレリP7”がロードモデルとして初めて採用されている。更に翌年1977年型ではタイヤ幅はそのままにホイールが16インチ化され、4速MTは930/32型に更新されている。︎今回入荷した1986年型「ポルシェ911ターボ」に搭載されるエンジンは、1978年にそれまでの2994ccの930/50型エンジンから、ボアが2mm、ストロークが4mm拡大され、新たにボア×ストローク97mm×74.4mmから3299ccに排気量アップされた930/68型となる。排気量アップに伴いチャージアフタークーラー(これが正式な名称で通称はインタークーラー)がリアウィング内に装備され、採用されるKKK製ターボはK27型に変更される。このチャージアフタークーラーは、ターボで過給される圧縮空気を冷却する事でエンジンに送り込む酸素濃度を高め、燃焼効率の向上と異常燃焼を防ぐ役割を担っている。これにより最大過給圧は0.8バールを維持したまま圧縮比が7.0にアップされ、ヨーロッパ仕様では最高出力300馬力/5500rpmと最大トルク42kgm/4000rpmへと引き上げられている。1983年型からは、燃料噴射装置がKEジェトロニックへと変更を受けるエンジンは、最高出力を維持したまま、最大トルクは44kgmまで向上する。今回入荷した「911ターボ」の3.3ℓエンジンは、排ガス規制に対応した三元触媒を装備し、料噴射装置がKEジェトロニックへと変更されたUSスペックエンジンとなる為、最高出力は285馬力/5300rpm、最大トルクは38.9kgm/4250rpmを発揮する。1982年までのUSスペックの3.3ℓターボ・エンジンは、265馬力/5500rpmと40.3kgm/4000rpmの最大トルクを発揮していたが、1983年型以降のモデルは燃料噴射装置の変更と触媒の機能向上に伴い性能アップが図られている。また、正規輸入された3.3ℓターボ・エンジンの「911ターボ」にもこのUSスペックエンジンが搭載されている。︎足回りは、1986年8月からセッティングが改められるがフロントにマクファーソン・ストラット式、リアはセミトレーリング式が採用され、それぞれにトーションバースプリングとスタビライザーが装備されることに変更は無い。このサスペンション型式は「911」と共通となるが、レーシングモデル「カレラRSR」のノウハウが用いられ、キャストアロイ製トレーリングアームや強化型ホイールベアリングの採用により強力なエンジンに対応し大幅に強化されている。前後ともにドリルド・ベンチレーテッドディスクが装備されるブレーキは、フロント304mm径、リア309mm径とされ前後ともにブレンボ製4ポッドキャリパーが組み合わされている。ホイールはフロント7Jに205/55VR16サイズのタイヤが組み合わされるのはそれまでのモデルと同様となるが、リアはセッティングが改められたサスペンションに伴いワンサイズアップの9Jとされ、タイヤサイズも225/50サイズから245/45VR16サイズへとアップされている。ホイールは純正の16インチのFuchs製アルミ鍛造ホイールとされ、今回入荷した車両にはZR規格のオリジナルサイズのタイヤが組み合わされている。︎インテリアは、見慣れたこの時代の「911」のレイアウトが踏襲されたデザインが採用されている。3スポークタイプのステアリングを通して見えるダッシュボードの中央には、6700rpmからレッドゾーンとなる、大径のタコメーターが置かれその内部には、最大1バール迄のターボブースト計が装備される。その右側ににはひとまわり小径の300km/h迄刻まれた「911ターボ」ならではのスピードメーターがレイアウトされる。メータークラスターに並ぶ5連メーターのレイアウトは「911」誕生以来の眺めとなりメーターは全てVDO製が採用されるのも同様となる。今回入荷した車両では、本来アナログ時計が置かれる一番右の位置に、1.5バール迄のブースト計が収められている。この1986年型から「911」全車種シートポジションが20mm下げられオルガン式のペダルが踏み込みやすいドライビングポジションが取れる様になっている。シート形状は「911」では見慣れたハイバックタイプとなるが、サイドサポートが大きく膨らんだスポーツシートが装備されている。このシートは可動部が電動化され厚手のレザーで覆われている。またレザーで覆われたダッシュボードや、フロアに敷かれたカーペットも防音効果の高い上級なマテリアルが採用されトップモデルに相応しい仕上りを見せている。全長×全幅×全高は4291mm×1775mm×1310mmとなり、ホイールベースは2280mm、トレッド前1430mm、後1450mm、車両重量1330kgとなっている。最小回転半径は5.4mで、燃料タンク容量は80ℓ、前後重量配分34.6:65.4、新車時販売価格は1690万円(1987年)となっている。生産台数は1978〜1989年迄生産された、3.3ℓターボエンジン搭載のクーペモデル17003台中、285馬力のUSスペックモデルは3730台となっている。︎メーカー公表性能値は0→100km/h加速5.4秒、0→1km加速24.0秒、最高速度260km/hとなる(300馬力エンジン搭載のヨーロッパ仕様)。カーグラフィック誌による実測テストでは265馬力の日本仕様3.3ℓターボで0→400m加速13.86秒、0→1km加速25.32秒、最高速度242.26秒となっている。︎「911ターボ」によりホモロゲーションを取得したポルシェは、世界メイクス選手権(WCM)にエントリーする為に、ロードモデルをベースに同じ3ℓエンジンから485馬力を発揮するグループ4モデル「934」を開発する。幅広のホイール/タイヤを収める為に規制枠一杯までのオーバーフェンダーとフロントエアダム、ターボウィングを装備、ターボ係数1.4により排気量4ℓ以上のクラスへとエントリーとなる為、最低重量は1025kgという規定の中で仕上げられた。この「934」をベースとしたグループ5マシンの「935」は、ポルシェのチーフ・エンジニアのノルベルト・ジンガーによりエンジン、サスペンションそしてボディに大幅に手が加えられ開発された。トーションバー式のスプリングはコイル式とされブレーキは「917」から流用されたドリルドベンチレーテッドディスクを採用、エンジンはターボ係数を掛けても排気量4ℓ以下のクラスを目標として2994ccから2855ccに抑えられ、最低重量970kgを目指した。レギュレーションによりクランクケースやクランクシャフトは市販モデル用から継承され、ボッシュ製機械式燃料噴射装置とKKK製ターボに1.4バールのブーストをかけ590馬力を発生する930/72型エンジンを搭載する。「935」は、1976年のデビューシーズンをマルティニ&ロッシ・カラーに彩られた2台のワークスカーをエントリーし、ジャッキー・イクスとヨッヘン・マスのドライブによりムジェッロとバレルンガの6時間レースで勝利し幸先の良いスタートを切る。このシーズンライバルとして立ちはだかったのは、同じ市販ターボモデルをもつバイエルンのBMWだった。シュニッツァーによりターボ化された直列6気筒3.2ℓ・M49/2型エンジンを搭載し、750馬力を発揮するBMWは、第3戦シルバーストーンではフロントロウを獲得しポルシェに抵抗してみせた。BMWはこのフランク・ステラによる方眼紙の様なグラフィックカラーを纏った、ターボエンジン搭載の「3.2CSLターボ」と、自然吸気3.5ℓ・直列6気筒DOHCエンジン搭載の「3.5CSL」によりタイトルの獲得を目指しシルバーストン、ニュルブルクリンク、エステルライヒリンクで3勝を挙げていた。「935」はWCMのタイトル戦から外れた「ル・マン」にも出場し総合4位を獲得、グループ5勢ではトップという結果を残している。激しいレース展開が続くWCMの年間メイクスチャンピオンの行方は最終戦ディジョン6時間レースにまでもつれ込んだ。予選ではポルシェ、BMWともにターボにフルブーストをかけてのアタックを開始し、0.5秒差でポールポジションを獲得したのは「3.2CSLターボ」だった。決勝レースがスタートすると「3.2CSLターボ」がリードし、イクスのドライブする「935」が追う展開となった。しかしトップのBMWは高速コーナーでディファレンシャルを壊してスピン、何とかピットまで辿り着くが結果はリタイア。「3.5CSL」が「935」を追撃するがポルシェはこのレースを1〜3位まで表彰台を独占する結果となり、シルエットフォーミュラー元年のメイクスタイトル獲得に成功する。翌年1977年のシーズンでポルシェは「935」にツイン・ターボ化したエンジンを搭載する「935-77」を開発し、630馬力にパワーアップされたエンジンと改善されたアクセルレスポンスにより年間メイクスチャンピオンを連覇する。前年に続いてWCMのタイトル戦から外れた「ル・マン」では序盤2位につける健闘をみせた「935-77」だったが、スタート5時間後にヘッドガスケットが抜けてリタイアに終わる。「935」のあまりの強さにライバル不在の状況で迎えた1978年のシーズンは、ワークスポルシェのライバルはプライベーターのポルシェとなってしまった。このシーズンの為に改良が施された「935/78」は、2年連続の「936」による「ル・マン」勝利に続き、ポルシェによる更なる連覇を目標に絞り、3211ccへと拡大されたエンジンは750馬力まで引き上げられた。このエンジンを搭載する「935/78」は、空気抵抗軽減の為に大幅に引き伸ばされた前後オーバーハングから、19世紀のハーマン・メルヴィルの小説「白鯨」に登場する鯨にちなんで“モビー・ディック”とよばれていた。空気抵抗係数は前年の0.393から0.362へと向上し「ル・マン」のユーノディエールの直線では前年より30km/hアップとなる366km/hを記録している。「ル・マン」のための足慣らしとして初登場した第4戦シルバーストンのレースではイクス/マスのコンビによるドライブで、圧倒的な速さを見せつけデビューウィンを飾る。そして迎えた「ル・マン」の予選ではプロトタイプ勢に続く3位を獲得。決勝ではグループ5勢の中でトップ/総合5位を維持していたが、オイル漏れによりペースダウンし8位でチェッカーを受けた。それでもレースペースは素晴らしく前年より1周で13秒もラップタイムを短縮する速さを見せていた。その後ヴァレルンガのレースにもエントリーした「935/78」だったが、噴射ポンプのベルト切れによりリタイア。ポルシェワークスチームによる“シルエット・フォーミュラー”への挑戦は、この年をもって幕がとじられたが「935」の活躍は有力なプライベーターに引き継がれ1980年代初頭まで様々なレースにエントリーしてその強さを発揮することとなる。この時代の「ポルシェ911」は、現在の道路を走るクルマ達の中では、とてもコンパクトに感じられる寸法をもつが、少し離れて眺めてみるとインゴットの様な濃密な凝縮感が感じられる存在感をもっている様にも見える。これはデザインされるボディ各部に全て裏付けられる意味をもち、それは「911」誕生時のプレーンなボディの時代から時を経る毎に進化した結果を物語る様でもある。特に今回入荷した「911ターボ」のボディでは、大きくフレアした前後フェンダーや大型の前後スポイラーにそれを見ることが出来る。ターボにより大幅にアップしたエンジン出力に対応した必要な装備であるとともに、ホモロゲーションモデルとしてレーシングカーに進化する事を想定して形作られたデザインであるとも言えるだろう。独特のオーラを纏うボディに近づき、その脇に立つと改めてリアフェンダーの張り出しの大きさには驚かされる。ドアを開きシートに腰を下ろすとドライバーを囲む雰囲気は他の「911」と同様、フロントウィンドウごしに見えるヘッドライトへと続くフェンダーライン、一際大きなレブカウンター…しかし追加されたブースト計や、300km/h迄のスピードメーターは、これから始まる異なる世界への期待を膨らませるのに充分な意味をもつ。左手でキーを捻りエンジンをスタートさせると、クーリングファンが回転する音と唸る様なエンジン、マフラーからのサウンドが響く。床から生える重めのクラッチを踏んで、1速にギアレバーを送り込みゆっくりと走り出す。2速にアップして低速で走っていると、硬めの乗り心地から強化された足回りが想像出来る。ターボ過給が本格的に始まる前でも低速のトルクは充分に感じられ、タウンスピードでも不自由なく走らせる事が可能となる。4速MTの為、2速の守備範囲は広く50km/hで2000rpm、6000rpmまで回せば150km/hまで届き、ほぼAT車の“Dレンジ”の様にも使える。ターボ過給の効果が発揮されるのは、3000rpmあたりからでアクセルを踏み込むとアッという間に別の世界にトリップする様な異次元の加速が味わえる。エンジンパワーは勿論だが「911」特有の強力なトラクションにより押し出されるところが、この独特の加速感を産み出している。単にエンジンパワーや固められた足回りによるものではなく車両全てがひとつに凝縮され、腹の底に響く蹴飛ばされる様な加速を見せている。そのトラクションの核となるのはリアにエンジンを搭載する「911」ならではの強靭なモノコックボディとなる。リア周りのエンジン隔壁あたりの極部剛性が高く、後方に行くに従い狭められたボディ形状、リアの低い位置にマウントされたエンジンによる低い重心高がこのトラクションを生むカギとなっている。ターボ過給が始まるとエンジンサウンドの高まりとともに高周波のタービンノイズが聞こえ、それと同時にパワーが2次曲線的にキックアップして、タコメーターの針が弾みをつけてレッドゾーンに一気に吸い込まれる。この圧倒的なスムーズさと加速の凄まじさは「ポルシェ911ターボ」ならではの世界となっている。この加速を活かしたワインディングでの走行では定評のあるブレーキ性能を堪能することも出来、アウトバーンの存在しない日本でも「911ターボ」を走らせる楽しみは尽きることはない。また現代のハイパワーモデルでは一般的となった快適装備も時代を先取りして採用していた「911ターボ」は、ロングツーリングも得意種目となっている。ポルシェによるターボ技術は「ポルシェ911ターボ」発表以降、モータースポーツシーンに於いては耐久レースやF1レース、ラリーを含めポルシェに数多くの栄光をもたらしている。ロードモデルでは更なる高性能と洗練をもたらし、ターボ技術のパイオニアとしてポルシェは進化を止める事無く多くの可能性を追い続けている。