フェラーリ488ピスタ
F1 DCT
ジィアロモデナステッチ、アルカンターラインテリアネロ、レーシングシート、アルジェントニュルブルクリンクツートンカラー、バックカメラ
カーホンファイバーハブキャップ、アッパー、センター、サイドエアスプリッター、コンソールトリム、リアモールディング、アダプティブフロントライトシステム
フェラーリテレメントリー4点式ベルト、シングルドリームライン、20インチカーボンホイール、フロントリフティングシステム、コンパートメントマット
「ディーノ206GT」に端を発するスモール・フェラーリの歴史は、1970年代に入ると「ディーノ246GT」までのV型6気筒ミド・エンジンの時代から、V型8気筒ミド・エンジンの時代を迎える。フェラーリ・ロードモデルとしては異質のカロッツェリア・ベルトーネによるウェッジシェイプのボディを纏った「ディーノ308GT4」は、1973年10月のパリサロンでお披露目され、2+2のキャビンをもち新型V8エンジンをミド・シップで搭載して、スモール・フェラーリ新時代の幕を開けた。同型エンジンを搭載した、スモール・フェラーリの本命とされる2シーターの「フェラーリ308GTB」は、伝統のカロッツェリア・ピニンファリーナによるボディデザインが施され1975年10月のパリサロンでデビューする事となる。V型8気筒エンジン搭載モデルでありながら「フェラーリ」ブランドで販売された「308GTB」は、インジェクション化や4バルブ化、エンジン排気量の拡大によにより「328GTB」へと進化を遂げながらフェラーリ生産モデルの中でも高い人気を誇り、重要なポジションを確保する存在となった。以降、スモール・フェラーリの主力モデルは、自然吸気によるリニアでレスポンシブなV型8気筒エンジンと、類稀なるカロッツェリア・ピニンファリーナによる流麗なベルリネッタボディとともに進化を続けながら、モデルチェンジを繰り返し生産される事となる。2009年10月のフランクフルトショーで発表された「458イタリア」では、V型8気筒エンジンは4.5ℓ・570馬力までパフォーマンスアップが図られ、新たにDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)が採用されることでハイパフォーマンスとユーティリティの両面での洗練性が大幅にアップし、完成度をいちだんと高めたモデルに成長した。︎高い人気を誇る「458イタリア」ではあったが、2010年代に入ると、世界的な資源・環境意識の高まりから、燃費改善とCO2排出量削減を促す世の中の趨勢から逃れる事は出来なかった。2015年3月のジュネーブショーで発表された「458イタリア」の後継モデルでは「488GTB」を車名とし、エンジンをツインターボによる過給機付きエンジンとする、新型ダウンサイジング・ターボ・エンジンが搭載されていた。「458イタリア」までスモール・フェラーリの車名は、エンジン排気量と気筒数を組み合わせた数字が用いられる事が通例とされていたが「488GTB」では、フェラーリ12気筒モデルと同様に、数字はひとつのシリンダー容量とされ、スモール・フェラーリ初期のV8エンジン搭載モデルに用いられた「GTB(=グランツーリスモ・ベルリネッタ)」と組み合わされた。また「488GTB」のエアロダイナミクスを追求したボディデザインは、カロッツェリア・ピニンファリーナのものではなくフェラーリ自社内のフェラーリ・スタイリングセンターによるものとされ、ボディサイドの大型エアインテークは「308GTB」由来のものとなっている。高い空力性能を達成するにあたり、開発とデザインの密な連携が重要視された結果、もはや社外デザインでは難しくなったという事なのかもしれない。それまで続いてきた流れからの転換点に位置付けられる「488GTB」ではあるが、そのパフォーマンスに於いてはフェラーリ・ロードモデルとして輝きを失うことは全く無く、期待以上の仕上がりを見せた。搭載されるF154CB型とよばれるV型8気筒DOHC32バルブ直噴ツインターボエンジンは、ボア×ストローク86.5mm×83.0mmから3902ccを得る。チタンアルミ合金をコンプレッサーホイールに採用したIHI製ターボチャージャーを2基装備し、軽量設計とレスポンスにこだわったパワーユニットは9.4の圧縮比をもち、最高出力670馬力/8000rpmと、最大トルク77.6kgm/3000rpm(7速時)を発揮する。組み合わされるトランスミッションは、7速DCTのみの設定とされ「458イタリア」比で、50%増のダウンフォース得るとともに、世界最高水準のエアロダイナミクス性能を達成している。公表性能値では0→100km加速3.0秒、0→400m加速10.45秒、0→1000m加速18.7秒、最高速度330km/h以上の高性能を誇る。発表当時、併売されていた12気筒エンジン搭載のフラッグシップモデル「F12ベルリネッタ」を0→100km/h加速で0.1秒上回るとともに、フィオラーノ・テストコースでのラップタイムでは1分23秒と同タイムを記録するほどの速さを見せた。2018年3月のジュネーブショーで発表されたエボリューションモデルが「488GTB」の性能を更に高めたスペシャルモデル「488ピスタ」となる。今世紀に入ってからフェラーリは、ワンメイク・レースのチャレンジ・シリーズやFIA・GT選手権にエントリーされるレース・モデルから得た、技術のフィードバックを施したスペシャル・モデルの販売を開始する。「360モデナ」をベースとした「360チャレンジストラダーレ」を皮切りに、少量生産されたスペシャルモデルは、コレクターズ・アイテムとなるほどの注目を集めた。代を替わる毎にモデル末期に発表されるスペシャルモデルは「430スクーデリア」「458スペチアーレ」「488ピスタ」とラインナップされた。「488ピスタ」の車名にある「ピスタ」とは、イタリア語で「レーストラック」や「サーキット」を意味するワードとなり、その性能の高さと、併せてレース由来となるフェラーリという会社の出自をも感じさせるものとなっている。ベースモデルの「488GTB」でも充分に高性能であるにもかかわらず、更なる性能アップが施された「488ピスタ」は、サーキットのみならず公道に於いても、ほとんど我慢を強いられないほどの快適と驚くべき乗りやすさが実現されたモデルでもある。スペシャルモデル・シリーズの中でも飛び抜けて速いだけでは無く、圧倒的に快適で走らせやすいスーパースポーツに進化している。「488ピスタ」は、ベースモデルとなる「488GTB」にWEC(FIA世界耐久選手権)に参戦していた「488GTE」と、ワンメイク・レース用の「488チャレンジ」という2種類のレーシングカーに由来する軽量化技術や、エンジン・チューニング、ヴィークル・ダイナミクス、エアロ・ダイナミクス技術が大量に導入されている。フロントラジエーターは「488チャレンジ」と同様に前傾から後傾に変更され冷却性能を高めながら、アンダーボディの設計変更やF1由来の「Sダクト(フロントバンパーのインテークから空気を取り入れボンネット上に排出することでダウンフォースを稼ぐシステム)」採用により、高い空力性能を誇る「488GTB」に比べ、20%大きなダウンフォース量を得ている。ボンネットと前後バンパー、及び30mm高められ40mm長くされたリアスポイラーは炭素繊維強化樹脂(CFRP)製とされ、リアウィンドウはポリカーボネイト樹脂製、インテリアも軽量化にこだわり、ほぼカーボンパネルとアルカンターラで造形され、バッテリーは軽量なリチウムバッテリーが採用されている。これらの軽量化により「488GTB」より約90kgも減量された「488ピスタ」のパワーウェイトレシオは1.78kg/PSとなりフェラーリ・ロードモデルの中でもトップクラスとなっている。︎「488ピスタ」に搭載されるエンジンは、F154CD型とよばれるV型8気筒DOHC32バルブ直噴ツインターボで、ボア×ストローク86.5mm×83.0mmから3902ccの排気量を得るのはベースモデルの「488GTB」と同じ。しかし改良点は多岐にわたり、シリンダーヘッド、ピストンは強化型とされ、新型チタン製コンロッドを採用、更にエキゾースト・マニホールドはF1譲りの軽量なインコネル製とされるなど、およそ5割にあたるパーツが新設計となっている。9.4から9.6へと高められた圧縮比と「488チャレンジ」に採用されたIHIによるターボ技術でターボチャージャー・スピードセンサー(2基装備されたターボの回転数をセンシングし、整える事によりパワーを最大限引き出しゼロ・ターボラグをもたらす技術)が加えられ、最高出力720馬力/8000rpmと最大トルク78.5kgm/3000rpm(7速時)を発揮する。このエンジンでは可変トルクマネージメントが採用されたことで、各ギアごとにトルク曲線に変化が与えられ、一般的なターボ・エンジンにみられるフラットトルク型ではなく、自然吸気エンジンの様にレッドゾーンに向けて右肩上がりのリニアな加速が1速〜6速まで続く様にチューニングが施されている。7速のみがボトムエンドから急激にトルクが上昇し3000rpmで最大トルクを得るフラット特性とされている。ベースモデルから実に50馬力ものパワーアップを図りながら、エンジン単体重量は18kgの軽量化も実現されている。組み合わされるトランスミッションはエンジンとともに進化した7速DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)となり「ショットガン+オーバートルク」とよばれる新たな制御ロジックが加えられ、よりスポーティな変速感が楽しめる様になっている。︎足回りはフロント・ダブルウィッシュボーン+コイル、リア・マルチリンク+コイルでそれぞれにスタビライザーが備わるのは「488GTB」と同様ながら、前後ともにスプリングレートは11%アップされている。ショックアブソーバーは磁性流体を使ったマグネティックライドが採用され、ダンパーピストンに内蔵される電磁コイルにより弾性を瞬時に変化させる機能をもつ。また今回入荷した車両にはフロントリフティング機能が装備され、任意でフロントを40mmリフトする事が可能となっている。ブレーキはカーボンセラミック製ドリルドベンチレーテッドディスクが装備され、フロント398mm径、リア360mm径のディスクは、フロント6ポッド、リア4ポッドのブレンボ製アルミ・モノブロック・キャリパーと組み合わされる。ホイールは前後20インチのアルミ鍛造製となり、フロント9J、リア11Jサイズとなる(今回入荷した車両には、オプション設定されていた20インチ・カーボンモノコックホイールが装備され、鍛造アルミ製の標準ホイールに比べ20%軽量化が図られている)。組み合わされるタイヤは、ミシュランにより「488ピスタ」専用に開発されたパイロット・カップ2・K2となり、このタイヤは全く新しいコンパウンドが採用され、ウェット性能を確保しながら、あらゆるドライバーのスキルに応じたドライビングプレジャーを引き出せる様にセッティングが施されているという。サイズはフロント・245/35ZR20、リア305/30ZR20となる(今回入荷した車両には同サイズの高性能セミレーシングタイヤ・ピレリPゼロ-トロフェオRが装備されている)。︎インテリアは、基本的なレイアウトやデザインはベースモデルの「488GTB」を踏襲するが、構成するマテリアルは軽量化に配慮されたカーボンパネルとアルカンターラとなっている。ドライバー正面には1万回転まで刻まれたレブカウンター、その左側のTFTディスプレイはドライビングモードを選択出来るマネッティーノの状況や、各種メーター類が表示出来、右側のTFTディスプレイにはナビ画面などが表示される(今回入荷した車両は右ハンドル仕様となる為、ディスプレイの機能は左右逆にレイアウトされている)。ステアリング上部にレイアウトされる「レブランプ」は、赤いLEDの順次点灯によりレブリミットの接近を知らせてくれる。スターター、ワイパー、ウィンカー、ダンパーの切り替えスイッチ類は、ステアリング上に備わる。バックギア、オートモード、ローンチコントロールのスイッチはセンターコンソールのブリッジ上に配置されている。ステアリング右下の位置に置かれる、ドライブモード切り替えスイッチのマネッティーノでは「WET」「SPORT」「RACE」「CT OFF」「ESC OFF」のモードが設定され、あらゆる走行環境に合わせたモード選択が可能となっている。フェラーリ独自の横方向制御システムSCC(サイドスリップコントロール)は第6世代となり「CT OFF(トラクション・コントロール・オフ)」モードで作動する、FDE(フェラーリ・ダイナミック・エンハンサー)はヨーモーメントの変化を感知し、4輪のブレーキを電子制御するトルクベクタリングシステムとなる。FDEはサーキットでベストラップを刻む為というよりも、ドライバーが車両をコントロールする醍醐味をサポートするシステムとなり、リアが滑り出しても唐突な感じでは無く、カウンターを有効に当てやすくなる方向に制御される。クルマ主導でドライブさせられている感覚では無く、あくまでドライバー自身が操作している感触を濃厚に感じさせる電子デバイスとなっている。ルーフの内張をはじめ多くの部分はアルカンターラで覆われ、カーボンファイバー製の軽量バケットシートも表皮はアルカンターラ張りとされ、しっかりと身体をサポートするとともに、ヘッドレスト部分には跳ね馬のエンブレムの刺繍が付けられている。全長×全幅×全高は4605mm×1975mm×1206mm、ホイールベース2650mm、トレッド前1679mm、後1649mm、車両重量1280kgとなっている。前後重量配分41.5:58.5、燃料タンク容量76ℓ、新車時販売価格は3940万円。︎メーカー公表性能値は、0→100km/h加速2.85秒、0→200km/h加速7.6秒、最高速度340km/hとなっている。︎フェラーリがサーキットで培った技術を注ぎ込んで作り上げた「488ピスタ」。低く構えた佇まいから、ドアを開けて乗り込むにあたっては、低められたサイドシルがバケットシートへの乗降性を容易にしてくれている。シートに身体をおさめると、レブランプを内蔵したステアリング越しに、1万回転迄刻まれた大径のレブカウンターと相対することとなる。ステアリング上にレイアウトされたエンジンスタートボタンを押すと、迫力のあるサウンドとともにエンジンが始動する。ファストアイドルが終わりドライブモードを「SPORT」で、変速を「AUTO」にして走り出せば、想像以上に安楽にドライブすることが可能となる。2000rpmを過ぎたところで自動でシフトアップが繰り返され、控えめなエンジンサウンドとあわせて、特別なモデルを走らせていることを忘れそうになる。路面状況が思わしくなくても、足回りはバタつきや振動を感じさせる事無く、硬質ではあるけれど、けして乗り心地は悪くない。一般道を走らせても我慢を強いられずに、快適で乗りやすいスーパースポーツとなっている。高速に乗って5000rpm以上エンジン回転を上げてみると、贅沢なニッケル合金となるF1由来の軽量なインコネル素材が採用され、27%延長することで等長化されたエキゾースト・マニホールドからのサウンドは「488GTB」とは全く異なる高周波成分をたっぷりと含んだものとなる。そのドラマチックな感触とエネルギー溢れるパワーフィールは、ドライバーの気持ちを充分に昂らせる。「488ピスタ」は、スポーツカーとして優れた性能を発揮するだけではなく、誰もがフェラーリのロードモデルに期待する、感情に訴えかける官能性をも併せ持つ。ワインディングロードに持ち込めばコーナリング中のボディコントロールが秀逸な事も体感出来、軽いロールを伴いながらノーズダイブもテールスクォートも感じさせず、ヒラリヒラリと鮮やかに連続するコーナーをクリアしていくことが可能となる。スピードレンジが更に上がるサーキットに於いても、ドライバーと「488ピスタ」の信頼関係は全く変わる事なく期待以上の走りで応えてくれる。「488GTB」よりハイパワーで軽量である事からとにかく速い。ただそれだけではなく特筆すべきは、ピーキーで粗削りな感触を全く感じさせずに、一体感のある運転しやすいクルマに大きく進化している事。そして速さだけが特出しているのでは無く、走らせる歓びが濃厚で飛び抜けているところが「488ピスタ」の特徴といえるだろう。スペシャル・フェラーリシリーズの中でも際立つ一台、といえるモデルが「488ピスタ」となっている。