カローラ レビン
レストア車両、エンジン、ブレーキ、足回りオーバーホール、電動パワーステアリング装備されております。
1970年代の高度経済成長により、日本に於ける乗用車の保有台数は1000万台を突破し、国民のおよそ10人に1人がマイカーを持つ時代が到来する。この頃の日本の乗用車を語る時、1966年に登場した「トヨタ・カローラ(KE10型)」は、真っ先にその車名が挙げられる一台だった。車名の「カローラ」は「花の冠」を意味し「人目を引く美しいハイ・コンパクトカーをイメージしたネーミング」とトヨタはコメントを残している。それは生産や販売量だけではなく、クルマそのものの成り立ちや装備の点からみても、日本最大メーカーの製品として常にマーケットをリードし、多大な影響力をもつ国産車の代表ともいえる存在感をもつ一台となった。シリーズを構成するボディ型式や、エンジン、ギアボックスなどのメカニカル・コンポーネンツ、アクセサリーの組み合わせにより、幅広い価格レンジを展開する「カローラ」は、1970年に2世代目(KE20型)へと進化する。「カローラ」シリーズのバリエーションの一台として誕生し、このモデルチェンジを機に独立モデルとなった「カローラ クーペ(TE25型)」は、それまで搭載していた1200ccのエンジンに、新開発の1400cc搭載モデルを加えると、5段ギアボックスや固められた足回りをもつ、シリーズ中、最高性能モデル「1400SR」を追加発表する。扱いやすさを重視しながら、高い水準の動力性能とバランスの良い操縦性、居住性、豊富なアクセサリー類により、市場での人気を得ていた。他社の当時の国産スポーツ・モデルの中には「スカイラインGT-R」「ベレットGTR」「ギャランGTO-MR」など経済的、現実的とは言い難い、少数の、高額で硬派なスポーツ・モデルがそれぞれのラインナップの頂点に存在し、シリーズのイメージリーダーとしての宣伝効果を発揮していた。これを横目にトヨタは、1972年3月に「カローラ」には「レビン」を「スプリンター」には「トレノ」と呼ばれるモデル(TE27型)を追加した。車名の「レビン」とは英国の古い言い方で「稲妻」を意味し、「トレノ」はスペイン語で「雷鳴」を意味していた。スペックの概要はクルマ好きには極めて魅力的なもので、コンパクトで軽量な「カローラ」クラスのクーペ・ボディに、1970年に発表された上級モデル「セリカ/カリーナGT」に、ひと足先に搭載されていた1.6ℓ・直列4気筒・DOHCエンジンを搭載するというものだった。5段フロアシフトのマニュアル・ギアボックスが組み合わされ、足回りは基本的には同じ構造となるが、強化されて容量アップが図られている。ステアリング・ギアレシオも18.18(ロック・トゥ・ロック3.5回転)から16.1(ロック・トゥ・ロック2.8回転)へと速められ、エクステリアのメッキモールを廃して、FRP製のオーバーフェンダーが装備された。インテリアは、装備が省かれ全体的に黒を中心に構成されるとともに、シートがスポーティなデザインとされ、インパネには補助メーターが追加された。「レビン/トレノ」は、強いスポーツ志向をアピールしながらも「カローラ」シリーズのイメージリーダーとしての役目も担っていた。登場した1972年の8月には、早くもマイナーチェンジが行われ、フロント・グリルまわり及びリア・ランプに新たなデザインが与えられた後期モデルが登場する。前期モデルは生産台数が少なく、今回入荷した「カローラ レビン」もこの後期モデルとなっている。「レビン/トレノ」の誕生背景として1970年にトヨタは「日本グランプリ」の中止を受けて「トヨタ7」の開発を中止、2年後にモータースポーツ活動の中心をツーリングカー・レースに絞っている。ワークス・レース活動をしていた「セリカ」と並んでTS/耐久レースなどで「レビン/トレノ」が活躍し、更なるイメージアップが図られる事となる。TE27型・トレノは、雨の中行われた1972年10月の「富士1000kmレース」では、最速を誇る「マツダRX-3」や「スカイラインGT-R」を下して総合優勝を飾る。また、レースだけにとどまらず国内ラリーでも無敵の強さを発揮する。TE27型・トレノがデビューする以前は「三菱ギャラン」が常勝マシンとして存在していたが、TE27型のポテンシャルはそれを上回り、連戦連勝を重ねることで”ラリー・キング“の名を欲しいままにする。トヨタはヨーロッパのラリーにもTE27型・レビンでワークス参戦すると1974年には英国の「RACラリー」で総合4位に入賞。翌1975年にはフィンランドの「1000湖ラリー」では総合優勝を飾り、日本車として初めてのWRC・ヨーロッパラウンドでの勝利を歴史に刻んだ。今回入荷した1972年式のTE27型「カローラ レビン」に搭載されるエンジンは「2T-G」型とよばれる水冷直列4気筒DOHC8バルブとなる。ボア×ストローク85.0mm×70.0mmのオーバースクエア・タイプの燃焼室をもち、1588ccの排気量を得る。三国ソレックス40PHH3型キャブレター2基を装備し、9.8の圧縮比から最高出力115馬力/6400rpmと最大トルク14.5kgm/5200rpmを発揮する。ブロックは鋳鉄製、ヘッドはアルミ合金製となるこのエンジンは、ヤマハ発動機との共同開発による。かつて「2ストローク・エンジン専業メーカー」ともいわれていたヤマハ発動機は、1960年代から始まったトヨタとの技術提携により、レースシーンでの活躍や市販オートバイで好調な実績を築いて、自動車メーカーへの発展を模索していた。その一環としてトヨタとの関係を深め「トヨタ7」が搭載していた5ℓ・DOHC・V8エンジンを開発する事となる。そして、この流れは「トヨタ2000GT」のプロジェクトとして発展し「トヨタ1600GT」を経て「2T-G」型エンジン開発へと繋がった。以降、トヨタの量産DOHCエンジンはヤマハ発動機が関与し、2007年に発表された「レクサスLFA」に搭載される1LR-GEU型とよばれる4.8ℓ・72度V10DOHCエンジンもヤマハ発動機によるものとなる。扱いやすい「2T-G」型エンジンはポート径を出来る限り絞って、マニフォールドを長く設計されている。こうする事で低中回転域のトルクを稼ぐのに有利となり、扱いやすい特性が与えられている。2本のカムシャフトは2ステージのダブル・ローラー・チェーンで駆動され、コンパクトで軽量、広いトルクバンドを持つ事により高い実用性も備えたスポーツエンジンとなっている。「2T-G」型エンジンは累計30万基に達し、DOHC型エンジンとしては空前の生産台数を記録している。組み合わされるトランスミッションは「セリカ/カリーナGT」などと共通の5段フルシンクロのマニュアル・トランスミッションとなる。通常のH形パターンの右上に5速、その手前にリバースが配置される。シフトの感触、レバーの動き、シンクロナイザーの容量、格段におけるステップアップ比などが良好で、この当時としては高い評価をうけたギアボックスとなる。クラッチは「セリカGT」と共通で、4.300と低めのファイナルを与えられ、リミテッド・スリップ・デフはオプション設定とされた。今回入荷した車両が搭載する「2T-G」型エンジンには、ソレックスに替えてウェーバー製キャブレターが装備され、点火系も高性能なアルドン製コイルや永井電子製M.D.I.-DUALでアップデートが図られている。足回りは、フロント・マクファーソンストラット式+コイルスプリング+スタビライザー、リア・半楕円式リーフによるリジット式。ブレーキは、フロントに184mm径ディスクを装備し、リアは、リーディング・トレーリング式のドラムとなり、サーボは装備されていない。ホイール・サイズは5J×13インチで、175/70HR13サイズのタイヤが4輪に装備されている。今回入荷した車両には6.5J×13インチのカンパニョーロ製アバルトパターンホイールが装備される。組み合わされるタイヤは、4輪ともに185/60-15サイズとなっている。インテリアは「1400SR」のものを基本としながら、ダッシュボード中央には電流/油温/油圧計が新設されている。ドライバー正面には大径の右側に8000rpm迄のレブカウンター、左側には200km/h迄のスピードメーターが装備され、その間には、水温と燃料のコンビメーターが備えられている。ステアリングホイールは3スポークタイプとなり、レザー巻きとなる。スロットル・ペダルは鉄板製の吊り下げ式で、ヒール&トゥにも適した形状をもち、クラッチ・ペダルの左側には、頑丈なフットレストが標準装備される。シートはバックレストが一体式のハイバック型が新たに採用され、自然な姿勢と確実なサポートが得られる。薄いクッションの割には、長時間のドライビングでも疲れにくい機能的な設計となっている。今回入荷した車両は、カーペットがきれいに剥がされ、キャビンには6点式ロールバーが装備されている。ステアリングはスパルコ製のコーンが深めなバックスキンが巻かれた3スポークとされ、助手席前方にはラリー用コンピューターが装備されている。またセンターコンソールのラジオの上の本来時計が装備されている位置には「エア/フューエル・レシオ・メーター」が装備されている。これによりエンジンの空燃比を把握することで、効率的な燃焼を管理することが可能となっている。︎全長×全幅×全高は3945mm×1595mm×1335mm、ホイールベースは2335mm、トレッド前1270mm、後1295mm、車両重量855kgで、TE27型「トレノ」に比べ10kg軽量、「セリカGT」より80kgも軽量となる。最小回転半径は5.2mで、燃料タンク容量は45ℓ、新車時販売価格は81.3万円となっている。「カローラ レビン」は、1972年〜1974年迄、足掛け2年に満たない短い生産期間により「2T-G」型エンジン搭載モデルの中では生産台数は少ない。ボディ・カラーは「インディアナポリス・オリーブ」と「モンテローザ・オレンジ」の2色が設定され、後者のボディカラーをもつ「カローラ レビン」は圧倒的に数が少ないといわれている。︎メーカー公表性能値は、0→400m加速16.3秒、最高速度190km/hとなっている。カーグラフィック誌による実測データでは、0→400m加速16.05秒、0→1km加速30.30秒、0→100km/h加速9.56秒、最高速度182.2km/hという記録を残している。同じ「2T-G」エンジン搭載の「セリカ/カリーナGT」の同誌による加速・最高速度の記録を凌駕するだけにとどまらず「スカイライン2000GT-R」の0→400m加速16.6秒の記録を破り、その性能の高さを見せつけることとなる。TE27型「カローラ レビン」のドアハンドルを引いて軽く感じられるドアを開き、ハイバック・タイプのドライバーズシートに腰を下ろすと、コンパクトなボディサイズが現代のクルマとの違いを感じさせる。フロント・フェンダーに装備されるバックミラーも時代を感じさせるが、慣れると視線を移さずに後方が確認出来る為、便利な事にも気づく。クラッチを踏んでスロットルを煽り、長めにスターターを回してエンジンをスタートさせる。エンジンが始動すると、ノイズとバイブレーションが軽量なボディを震わせ、その微振動がシートを通してドライバーに伝わってくる。ブリッピングをすると、軽くキャブレターの吸気音が聴こえて、ボディがユラリと動きエンジンマウントのラバーが硬めな事と、エンジンとボディがリジットに繋がっているのが感じられる。1速を選んでクラッチをエンゲージして走り出すと、低めのギア比によりスッと軽くスピードを上げる事が出来る。街乗りのストップ・アンド・ゴーを繰り返すと、ややラフな印象を受けるかもしれないが、チューニング・エンジンの様な走り辛さは無く「2T-G」エンジンのフレキシブルさが感じられる。どのギアを選んでいてもその瞬発力はタイトで、無類にパワフルなエンジンに感じられる。下の4段ではアクセルを踏み込むと、そのレスポンスは鋭く、3000rpmを越えて活気を見せ初め、4000rpmを過ぎるとカムに乗る感覚を示しながらカーンッと快音を伴って、トルクピークの5000rpmを越える。そこから更にトップエンドの7000rpmに届かんばかりの勢いで、少しも回転上昇の衰えを見せるそぶりがない。低回転域のフレキシビリティと高回転域でのパンチ力、その両立により高いドライバビリティを発揮する。まさに痛快でスポーティな走り方が楽しめる。速められたステアリング・レシオによりコーナーリングは、切り始めにタイヤが鳴く事があるが、グリップのマージンは高いので、大袈裟に切り込まなくてもスロットルを僅かに緩める事でノーズは内側に引き戻される。コーナー出口では、スロットルを踏み込むとテールを沈ませながら立ち上がりの鋭いダッシュを味わう事が出来る。「セリカGT」と同じレシオのギア・ボックスでも、ひと回り大きめな4.300というファイナル・レシオが採用されているのと、軽量ボディ、レスポンスシブなエンジンの相乗効果によりとても敏捷な走りが堪能出来る。またブレーキはノンサーボとなる為、強めの踏力を要求するが耐フェード性は高く、その性能は安定し信頼出来るものとなる。「カローラ レビン」は、排ガス規制が本格化する寸前の短い期間に生産され、1960年代から続くスパルタンな自動車の魅力が凝縮された、貴重な国産スポーツモデルの一台となっている。同型エンジンを搭載する、ある意味バランスのとれた「セリカGT」の存在を思うと「カローラ レビン」は、ホモロゲーション・モデルの様な成り立ちを持っている様にも見える。コンパクトなボディにパンチの効いたパワフルなDOHCユニットを搭載し、軽量ボディのFRモデルというと、英国フォード製の「エスコートRS」の様だと表現出来るのかもしれない。操縦性、居住性、そして動力性能などの要素が、極めて高い水準で均衡が取れているという意味では「カローラ レビン」の方が勝っている…と考えるのは、日本人ならではというところなのだろうか…